都市とアートとまちづくり - 中井検裕
ABOUT > 2008.08.09
都市とアートの関係は深い。権力者がモニュメントとして銅像や彫刻、記念碑などを都市に設置することは、かなり古くから行われている。近代に入ってからでも、例えば19世紀末から30世紀初頭に架けてアメリカで普及した都市美運動というものがある。
美しくすることによって都市環境を改善しようという試みであるが、その中でも、都市の主要な場所に壮大なモニュメントや芸術作品を設置することは重要な手法の1つとされていた。日本でも1960年代頃から野外彫刻展が行われるようになり、その後、大通りや駅前広場を主要な舞台として、彫刻のあるまちづくりが全国で展開されていくようになった。
このような古くからある都市とアートの関係は、いずれも都市を代表する場所を芸術作品で飾ろうというものであり、いわば都市の「ハレ」の場を、ハレの行為としてのアートで演出しようというものである。
しかし、1990年代にはいると、都市のハレの場ではなく、日常生活空間、すなわち「ケ」の場をアートの舞台としようという動きが登場してくる。東京の下町・谷中を舞台にした谷中芸工展は、1994年が第1回目だった。2000年には向島でも博覧会が開かれ、同年からは越後妻有トリエンナーレも始まっている。そこでは、アートは都市空間の演出要素というよりはむしろ、まちづくり・むらづくりの重要な手法として認識されている。
日常生活空間に置かれた非日常的な芸術作品、それは見るだけでも楽しい。だからアートは、基本的には地味で地道な環境改善活動であるまちづくりに、楽しさをもたらしてくれるし、楽しければまた、まちづくりも続けることができる。
しかし、アートとまちづくりの関係は、楽しさの提供にとどまらない。その本当の効果は、アートが人々の感性に働きかける力によって、私たち自身に、日常見過ごされがちな生活空間の心地良さや、失ってはならない大切な地域の特徴や空間資源を再発見する力を与えてくれることにある。
多摩川アートラインも、そのような意図から始まった。これまでにない点は、駅と鉄道をアートの舞台とすることで、地域をアートでつなぎ、沿線のまちづくりを狙ったことだろう。芸術作品の持つ力を、鉄道という都市の移動装置を通じて相乗させていく試みは、今後のまちづくりにとっても大いに参考になる。
プロジェクトでは、単発的ではあったが、沿線地場の特徴であるものづくり産業との連携も図ることもできた。地域の産業がアートの媒介によって生活と結びつく。アートのまちづくりならではの成果である。
企画側にいる者が言うことではないのかもしれないが、アート・イベントとしての多摩川アートライン2007が成功だったことはまちがいない。イベントの企画・実行に尽力された地域、あるいはボランティアの方々には、まずそのことを称えたいと思う。沿線住民の人々も、アートの楽しさを実感されたのではないか。
一方で、多摩川アートラインがアートの本当の力をどれだけ使い切ることができたか。沿線の住民が、日常見過ごされがちな生活空間の心地よさや、失ってはならない大切な地域の特徴や空間資源を再発見しようとする力を感じとれ、それを育むことで持続的なまちづくりへのべく撮りが生まれつつあるか。それがわかるのはこれからだ。
私事ではあるが、私は大学時代の7年あまりをこの沿線の住民として過ごした。出身が東京ではない私にとっては、多摩川線沿線は私の東京の原点でもあり、まちづくりという今の仕事に繋がる出発点である。個人的な思い入れも小さくない。
だから、私のアートラインプロジェクトはまだ終わっていない。そしてこのプロジェクトに関わった全ての人々も、多摩川アートラインプロジェクトは終わっていないと思っていてほしい。
形式や内実は変わろうとも、アートの真の力がこの地域に根付き、それがまちづくりという果実を生み出すことを見極めるまでは、多摩川アートラインは続いている。
中井検裕
東京工業大学大学院社会理工学研究科教授
特集
2008年度グッドデザイン賞受賞!!
- 多摩川アートラインプロジェクトが、 2008年度グッドデザイン賞を受賞しました!!
多摩川アートライン アートラインウィーク2008 イベントスケジュール
- 多摩川アートライン アートラインウィーク2008 イベントスケジュールが決定しました。
ごあいさつ - 多摩川アートラインの2007年を振り返って
- 多摩川アートラインは、多摩川下流域エリアの鉄道(アートライン)・駅(アートステーション)・街(アートタウン)を舞台に市民と企業と行政で取り組む現代アートによる街づくりの活動です。
多摩川アートライン・サポーターズクラブ
- 多摩川アートラインの活動は、多くの個人や企業や団体の有形無形のご支援のもとに成り立っています。そして、この度、ご支援を頂くだけでなく、より多くの方々とプロジェクトを楽しみたいというスタッフや参加アーティストの思いから、サポーターズクラブが発足致しました。